発明を生み出す人材 第1回 ー優秀な発明者の特性の見える化ー
1. 優秀な発明者の人的特性について
研究・開発型の企業であれば、必ず「優秀な発明者」と周囲から認められる人がいる筈です。
ところで、「優秀な発明者」であるかそうでないか、については絶対的な評価基準が存在するわけではなく、企業毎(場合によっては同一の企業であっても組織毎)に異なる判断基準になるでしょう。それは、例えば、特許出願件数が相対的に多い人、特許の取得件数が多い人、或いは、特許出願件数や取得件数に関係なく斬新なアイディアを着想する人、多大な利益をもたらす発明をした人、などが考えられます。
私どもは、ある企業において「優秀な発明者」と称される人には、その企業(組織)固有の人的特性(パーソナリティ)があると考えています。
社内で、例えば、特許出願の件数の多い人、特許の取得件数が多い人、斬新なアイディアを着想する人などを思い浮かべてみてください。何かしらの共通の人的特性があるのではないでしょうか?
ここで紹介させていただくサービスは、そのぼんやりとした人的特性を科学的に割り出し、優秀な発明者を統計的に定義するものです。これによって、優秀な発明者になる可能性の高い人材を発掘したり、優秀な発明者になるきっかけを提示したり、或いは、優秀な発明者としての資質を有する人材の採用基準をある程度明確化すること等が可能となり、今までよりも特許取得率の向上や質の向上に役立てることが可能になるでしょう。
2. 人的特性の見える化
例えば、マーケティングの分野では、多量のデータの中から隠れた法則や関係性を見つけ出す「データマイニング」というものがあります。この「データマイニング」という言葉については、耳にされている方も結構いらっしゃるかと思いますが、簡単に言えば、多数のデータの中から有用な情報を抽出する手法といえます。
具体的な手法については、「相関ルール」、「クラスタリング」等、多種多様なものが存在しておりますが、ここでは、「決定木分析(ディシジョンツリー)」という手法に着目してみます(注1)。
決定木分析という手法
「決定木分析」は、ビジネスの分野において、例えば、顧客特性を分析したり、商品の併売状況を分析するのに用いられています。例えば、スーパーなどで、ある商品にどのような商品を組み合わせて販売(陳列)すれば良く売れるか、等について分析するのはご存知の方も多いでしょう(この分析に「決定木分析」を用いることがあります)。
このような手法は、人的特性を分析する上でも有効に活用することが可能であり、ここで紹介するサービスは、「決定木分析」を、企業内において多数存在する開発者や研究者の中から、「優秀な発明者」と称される人々について、ある共通する人的特性を見つけ出すのに活用したものです。
それでは具体的に、ある組織内において、「決定木分析」によって人的特性を分析する手順について説明してみましょう。
「決定木分析」をするに際しては、最初に、ある判断基準に基づいて、「優秀な発明者」と称される人材を抽出しておきます。ここでの判断基準については、例えば、年間の特許出願の件数で特定しても良いですし、その企業に貢献している(利益を上げている)特許権の発明者などによって特定しても良いでしょう。或いは、特定人における主観的な判断基準によって特定しても差し支えはありません。
次に、このような多数の人材すべてに適性試験を実施し、回答して頂きます。ここでの適性試験は、「優秀な発明者」の特性を炙り出すために、ある分析ロジックに基づいて作成されたアンケート形式(注2)のものであり、回答者は、各設問に対し、どれに当てはまるかを5段階のいずれかで回答して頂くものです(このアンケートは、簡単なものであり30分程度で済むものです)。
そして、予め抽出された「優秀な発明者」とアンケートの回答結果に基づいて、「決定木分析」を実行すると、表1のような結果が得られます(分析結果がツリーの形になっていることから「決定木」と称される所以です)。
表1は、「優秀な発明者」に関する分析事例ではありませんが、実際に、ある組織内に在籍する多数の人材について、その組織において「優秀な人」と称される人物には、どのような法則(人的特性)があるのかを、決定木分析したものです(※図中の氏名はダミーです)。
表1の分析結果に見られるように、「優秀な人」であるか否かを分類する要素(このような要素は分岐要素と称され、実施した適性試験で計測される特性項目の中から特定されます)が幾つか挙げられます。具体的に、この組織において、「優秀な人」を決定する最も大きな分岐要素は、ツリーの最上にある「自意識過剰」であったことが分析されます。
この組織では、「自意識過剰」が低いこと、そして、その次の分岐要素である「運営・マネジメント力」が高いこと、そして、次の分岐要素である「外向性」が低くないこと、すなわち、自分がどのように見られているかを気にしすぎる傾向が低く、組織や人を束ねて事業を進める力が高く、かつ、さまざまなことに積極的に関わろうとする意識が低くないという、まとめるならば、自らの分を知り皆を束ねて主体的に物事を進めて行くことができる人物が、その組織内における一つの成功パターンAとなります。
一方で、もっとも大きな分岐要素である「自意識過剰」が高かった場合には、それに続いて行く分岐要素である「行動実行力」、「機敏・機転」、「関わろうとする姿勢」がいずれも低い、すなわち、自分が他人からどう見られているかを気にする一方で、自分から積極的に行動を起こしたり、状況の変化に敏感に反応することは得意でなく、また、周囲の人とも自分からは関わって行こうとしないという、自分自身を周囲にアピールしつつも目標に向かって自分のペースで進んで行く人物が、その組織内におけるもう一つの成功パターンBとなります。
同様に、「自意識過剰」が高くても、「行動実行力」が高く、「論理性」が低ければ、周囲にアピールしながら積極的に行動する一方で、ロジックをもとに筋道だてて考えることがあまりない、考えるより先にまず行動に移る人物が、その組織内における別の成功パターンCとなります。
このように、決定木分析をすることで、ある企業(組織)内において、「優秀な発明者」と称されている人には、何が共通な要因となっているか、また、優秀か否かを左右する要因は何であるかを、見える化することが可能となります。
もちろん、「優秀な発明者」となる人的な特性、すなわち、表1で得られるような分岐要素については、企業毎(企業風土)によっても異なるでしょうし、業種によっても異なってきます。また、同一の企業であっても、組織が異なれば、異なる結果が導き出されることになります。
(注1)
決定木分析は、汎用ソフトとして一般化されています。
(注2)
「優秀な発明者」の共通する人的特性を分析するための設問内容、及びその分析ロジックについては、多数のデータに基づいて作成される特有のノウハウであり、株式会社イー・ファルコンからの提供によります。同社では、企業の人事部、営業部門、開発部門向けに200社以上の導入実績があります。
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