新規事項について(2)
ー新規事項の基本的な考え方と実務上の留意点ー

 拒絶理由が提起された後の補正は、上位、下位概念化するケース、図面の記載から構成要素を抽出するケース、請求項や実施形態の記載において、特定の構成要件を削除(課題を解決する上で必須となっている構成要件を意図的に削除)するケース等があり、これらの補正には、新規事項に該当するか否かが微妙になることがあります。

 また、新規事項が疑わしくなるような明細書の補正は、できる限り行わないのが好ましく、意見書、上申書等において主張するのが良いでしょう。例えば、先行技術文献の内容の追加や、発明の効果の追加は、許容される可能性もありますが、無理に明細書を補正するよりも、意見書等で主張した方が無難です(ただし、審査官によっては、「明細書に記載されていない事項に基づく主張である」等と指摘される可能性はあります)。

 補正を行なうにあたり新規事項が疑わしい場合、審査基準(第Ⅲ部第Ⅳ設 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正に関する事例集)に掲げられた事例集の中から近い事例を挙げて意見書において主張することは有効となります。すなわち、審査官、審判官も、審査に関しては、審査基準に基づいて審理判断をしている以上、その審査基準における指針、及び事例集を利用して、意見書で主張することは有効となります。

 ところで、審査基準の事例集を参考にするに際しては、その内容を吟味すると、逆の判断を導き出せる可能性があります。
 例えば、審査基準の事例集の事例1では、補正前の請求項に記載されていた構成要件を削除する補正は、その構成要件が、「発明の課題の解決」に関係が無ければ、新規事項には該当しないことが例示されています。これは、裏を返すと、請求項に記載されている構成要件が、課題の解決に必須の要件となっていれば、それを削除補正することは、新規事項に該当する可能性がある、と捉えることができます。これに関連して、平成18年(ネ)10077号では、分割出願(分割出願に関する判断基準は、補正に伴う新規事項と考え方が同様(審査基準第Ⅴ部第1章第1節2.2の実体的要件))において、原出願当初の明細書に記載された発明の一部の構成要件(原出願において課題を解決する上で必須の要件とされている)を削除した分割出願にかかる発明は、当初明細書(原出願明細書)には記載されていない、と判断しています。

 また、平成20年行(ケ)10197号では、当初明細書には、実施例の記載(一実施例とされている)、及び図面において、フレームの脚部が「回動」するという構造しか開示されていなかったところ、クレームにおいてフレームの脚部を「移動可能」とした補正は新規事項に該当するか否かが争われましたが、審決は新規事項に該当しないと判断し(無効2007-800152)、取消訴訟においても、その判断については取消事由に該当しない、とされております。
 このケースでは、当初の請求項に「回動」という記載はなく、拒絶理由の段階で、一実施例に基づいて「移動可能」という限定事項を記載しています。無効審判において、請求人は、審査基準の事例集の事例4を挙げて新規事項に該当することを主張し、その内容についても合理性のある内容(と思える)でしたが、結局、審判、及び裁判では、いずれも新規事項に該当しないと判断しています。
 ただし、この事例では、出願当初の独立請求項に「回動可能」という構成要件が記載されており、補正時にこれを「移動可能」にした(上位概念化)とすると、異なった結論になった可能性も有り得ます。すなわち、「移動」には、明細書に記載された「回動」以外にも、スライド等の移動方法が存在しており、出願当初の明細書に開示されていない構成が含まれる可能性があるためです。

 以上のように、補正における新規事項の判断基準については、出願時における明細書の記載内容(課題の記載、それを解決するための構成等)に左右されるところがあるため、発明の課題の捉え方、その課題を解決するための(最小限)の必須要件の抽出、さらに実施形態は、あくまでも請求項記載の発明の一例であることを裏付けできるような記載等、出願時における明細書作成には、留意すべき事項は多々あります。

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